若いうちにリスクを取るのは合理的だと思う。ただし取る場所は選ぶ
複利の時間価値と日本の人口・物価の統計、それとライフサイクル投資の論文から、若いうちにある程度リスクを取るのは合理的だという話をします。そのうえで、SNS・ギャンブル・事業・短期売買を「失う側の深さ」で並べ直して、僕がどこに置いているかまで書きました。
競馬、デイトレ、FX、暗号資産、SNS、YouTube、起業、完全歩合の営業。期待値も社会的な意味もぜんぜん違うのに、若い人がお金を稼ぐ手段として並べられる時、この辺がだいたい同じ棚に入っているのが前から気になっていました。
先に要点だけ書きます。僕は、若いうちにある程度リスクを取るのは合理的だと思っています。理由は2つで、若いうちの元本には複利の年数が付いてくること(同じ1000万円でも25歳と40歳では70歳時点で約1億3,400万円ちがう)と、失敗しても働いて取り返せる年数が残っていることです。後者はライフサイクル投資の論文にちゃんと定式化があります。
ただし「だから何に賭けてもいい」ではなくて、取る場所によって中身が全然違うというのが後半の話です。金銭のダウンサイドがほぼ無いSNS・コンテンツは僕はやらない理由がないと思っていますし、控除率のあるギャンブルは構造で外れます。事業は前よりやりやすくなったものの、資金かメディアを持っている側が勝ちやすい。そこまで並べたうえで、僕が副業として置いているのは短期売買です。
なお、ここに書くのは全部「僕はこう考えている」という記録です。投資や副業の助言をする立場ではないので、何をやるべきかという話は書きません。
結論。若いうちのリスクは合理的で、置き場所は「失う側の深さ」で選ぶ
結論を3段で書きます。
- 若いうちにリスクを取るのは合理的です。 若さの中身は複利の年数と、取り返せる労働年数の2つで、どちらも年齢とともに減ります
- ただし「上振れが大きい」と「期待値が高い」は別の話です。 ここを混ぜると、控除率のあるギャンブルと事業が同じ棚に入ります
- なので選ぶ軸は、跳ねる側の大きさではなく失う側の深さになります。 失う側が浅いものは全部やる、深いものは1つに絞る、というのが僕の置き方です
その軸で手段を並べるとこうなります。
右下(失う側が浅くて、跳ねる側が大きい)に入るのが SNS・コンテンツで、僕はここをやらない理由がないと思っています。右上は事業と短期売買で、ここは全部には手を出せないので1つ選ぶ。灰色のギャンブルは位置ではなく控除率という構造で外れます。
僕自身は、右下のメディアを常時回しつつ、右上のうち短期売買に置いています。理由は後半に書きます。
以下、順に見ていきます。
25歳の1000万円と40歳の1000万円は、同じ金額で別の資産になる
まず、若さの1つ目の中身です。複利の計算だけで話がどこまで動くかを見ます。ここは統計でも仮説でもなくて、ただの掛け算です。
1000万円を手にして、その後は一切追加せず、70歳まで運用したと仮定します。25歳スタートなら45年、40歳スタートなら30年です。上のグラフは7%の場合で、利回りを動かすとこうなります。
| 想定年率 | 25歳スタート | 40歳スタート | 差 |
|---|---|---|---|
| 4% | 約5,840万円 | 約3,240万円 | 約2,600万円 |
| 6% | 約1億3,760万円 | 約5,740万円 | 約8,020万円 |
| 7% | 約2億1,000万円 | 約7,610万円 | 約1億3,390万円 |
同じ金額、同じ利回り、違うのは始めた年齢だけです。それだけで7%なら約1億3,400万円の差が出ます。
「年率7%は楽観的すぎる」という指摘はその通りだと思うので、4%まで落とした行も置きました。利回りを落としても差が消えないところがこの表の本体です。 4%でも2,600万円くらい離れます。
なので、若さの価値は「体力がある」みたいな話とは別に、45年間ぶんの複利という形で金銭に換算できてしまう、という言い方ができます。ここは好き嫌いの問題ではなくて、指数関数の性質です。
日本の若い世帯は、そもそもまとまった元本を持っていない
次に、その元本を実際どれくらい持っているのかを見ます。結論から言うと、かなり少ないです。
金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」では、20歳代・単身世帯の金融資産保有額は平均99万円、中央値37万円でした。平均と中央値がここまで離れているのは、一部の保有額が大きい世帯に平均が引っ張られているためです。実態に近いのは中央値のほうになります。
つまり、さっきの表の左端に入る「1000万円」は、20代の真ん中あたりから見ると桁が2つくらい違う数字です。給与から積み立てて届く距離ではあるものの、届く頃には25歳ではなくなっています。
ここで「じゃあ40歳から始めればいい」と考えるのは、実はそんなに不自然な話ではないんですよね。20代から30代には、一人暮らし・結婚・住宅・出産・子育て・教育あたりの支出が集中します。全員がこのコースを通るわけではないにせよ、給与から生活費を払いながらまとまった金融資産を作るのが簡単でないのは確かだと思います。
ただ、複利の側から見ると、その15年間はさっきの表の差そのものです。
現役世代が減る前提は、すでに公式の推計に入っている
環境のほうも見ておきます。ここから先どうなるかは、推計としてはもう出ています。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」では、出生中位・死亡中位の推計で、総人口が2020年の約1億2,615万人から2070年に約8,700万人になります。65歳以上の割合は28.6%から38.7%です。人口の4割近くが65歳以上、という社会が公式の推計に載っている状態です。
支える側の話もあります。厚生労働省は「2040年を展望した社会保障・働き方改革」で、局面が「高齢者人口の増加」から**「現役世代(担い手)の急減」**に変わる、という整理をしています。制度の規模のほうは、社会保障給付費が2026年度(予算ベース)で144.1兆円、対GDP比20.8%です。
物価も効きます。総務省の消費者物価指数によると、2025年平均の総合指数は前年比3.2%の上昇でしたが、食料は6.8%上昇しています。総合の倍以上です。家賃・食費・光熱費・通信費・社会保険料あたりは、値上がりしたからといって買うのをやめる選択がしにくい支出なので、給与から投資に回せる余力はその分だけ細くなります。
もちろん、ここから「若者の負担は未来永劫上がり続ける」と断定はできません。制度改革も、賃上げも、生産性の向上もありえます。ただ、減る現役世代で大きくなった制度をどう持たせるかという問題自体からは逃げられない、というくらいは言えると思います。
若いうちにリスクを取れる理由は、根性ではなく残っている年数
ここが主張の芯です。「若いうちは失敗しても取り返せる」という言い方には、けっこう古典的な裏づけがあります。
Bodie・Merton・Samuelson(1992)は、ライフサイクルのモデルに労働供給の柔軟性(働く量や引退の時期を後から変えられること)を入れると、その柔軟性がある人ほど、事前にリスク資産の比率を上げるのが最適になることを示しました。若い人は残りの労働期間が長いぶん、投資が悪い方に出ても働き方で調整できる余地が大きい。だから理論上も、若いうちのほうがリスクを取れるという筋道になります。
取り返す原資は根性ではなくて、残っている年数のほうなんですよね。絵にするとこうなります。
1回の挑戦に2年かけるとすると、25歳には約20回ぶんの持ち時間があります。45歳だと約10回です。10年ごとに5回ぶん減っていく、という減り方をします。
だから僕は、リスクを取れる時期に取らないこと自体がコストだと思っています。避けているつもりで、複利の年数と試行回数を毎年払っている形になるので。ここは断定していい部分だと思っています。
一方で、これは「何に賭けてもいい」とは全然違う話です。ここから先が置き場所の話になります。
SNS・コンテンツは金銭のダウンサイドがほぼ無いので、僕はやらない理由がないと思っている
まず右下から。SNSやブログのようなメディアは、失う側がほぼ無いのに上振れだけ大きいという、この記事の軸で見ると一番きれいな形をしています。
かかるのは時間と、あっても機材代くらいです。外したときに借金が残ることはありません。そして外したときでも、企画・編集・分析・書く力・多少の読者は手元に残ります。
Manso(2016)は、起業のリターンを推定した従来研究が実験のオプション価値を勘定に入れていないために、平均も分散も偏って推定されていると指摘しました。駄目だと分かったら賃金労働に戻れる、という選択肢そのものに価値がある、という話です。同じ論文で、失敗した起業家に労働市場でのスティグマ(不利な扱い)が見られない、という結果も出ています。
Kerr・Nanda・Rhodes-Kropf(2014)も同じ方向で、起業を「成功確率が低く、極端に歪んでいて、投資してみるまで分からない実験」として整理し、実験のコストが下がるほど挑戦の形そのものが変わると書いています。
メディアはこの「実験のコスト」がほぼゼロまで下がった側です。成功率は正直かなり低いと思っています。ただ、外れても失うものが時間だけで、当たると事業側の初速がまるごと変わる。この形をしているものを回さない理由が、僕には見つかりませんでした。(このブログもその1本です)
控除率のあるギャンブルだけは、位置ではなく構造で外れる
次に灰色の点です。ここは好みの問題ではなく、法令に書いてある構造の問題になります。
競馬の払戻率は法令で枠が決まっていて、JRAの場合は単勝・複勝の80%から、WIN5の70%まで、投票法ごとに設定されています。参加者全体で見れば、入れた金額の20〜30%が必ず引かれます。上振れの大きさは、控除率の存在をひっくり返しません。
しかも外したときに残るものがありません。SNSなら残る編集技術のようなものが、ここには無い。上振れだけを見て同じ棚に入れてしまうと、この差が見えなくなります。
事業はやりやすくなったけれど、資金かメディアを持っている側が勝ちやすい
右上の1つ目です。事業は前よりずっと始めやすくなったと思っています。Kerr らの言う「実験のコストの低下」がそのまま効いている領域です。
ただ、副業としてやるとなると話が変わってきます。僕が引っかかっているのは3つです。
- 思い切りが要ります。 片手間で回せる規模と、跳ねる規模の間に距離がある
- 資金を入れられる側が有利です。 最初にまとまった額を突っ込める人のほうが、試せる回数も速度も上になります
- すでにメディアを持っている側が有利です。 作ったものを届ける先が最初からあるかどうかで、初速がまるで違う
そして失敗したときの金銭的なダウンサイドも中〜大です。Hall・Woodward(2010)は、ベンチャーキャピタルの支援を受けた起業家のうち約4分の3が exit 時に何も受け取っていないことを示しています。人的資本は残るとはいえ、お金の面では厳しい分布です。
なので僕の整理としては、事業は「メディアか資金のどちらかを先に作ってから入る領域」で、順番としては後ろに来ます。SNSが育って来たら参入すればいいし、その時に短期売買などで資金が作れていれば、なお勝ちやすくなるでしょう。
僕が副業として短期売買に置いている理由
右上のもう1つです。ここは僕の見立てなので、根拠の強さが今までと違うことを先に書いておきます。
副業として僕がいちばん期待値があると思っているのは短期売買です。 理由は3つあります。
- 投入する額と時間を自分で決められます。 事業と違って、規模を小さいまま試して、そのまま続けるか降りるかを選べます
- フィードバックが毎日返ってきます。 さっきの「試行回数」の話と直結していて、1回の試行が短いぶん、同じ持ち時間で回せる回数が多い
- 他人の都合に依存しません。 顧客も、採用も、プラットフォームの規約変更も挟まらない。兼業のまま続けられます
- AIをフル活用できる。 全てPC上で完結できるので、AIの力をフル活用できます。これが1番大きいと考えてます
まとめ
僕の結論は、若いうちにある程度リスクを取るのは合理的だ、というところです。若さの中身は複利の年数(25歳と40歳の1000万円で約1億3,400万円)と、取り返せる労働年数(25歳なら約20回ぶんの試行)で、どちらも黙っていると毎年減ります。取らないこと自体にコストがあるという意味で、ここは言い切っていいと思っています。
そのうえで、取る場所は失う側の深さで選びます。SNS・コンテンツは失う側がほぼ無いので僕はやらない理由がないと思っていますし、控除率のあるギャンブルは構造で外れます。事業はやりやすくなったものの資金かメディアを持っている側が有利で、順番としては後ろ。だから僕は、メディアを常時回しながら、右上のうち短期売買に置いています。
詳細を並べたあとで足せる一言があるとすれば、若さそのものには何の権利も付いていない、ということだと思います。Bodie らも Manso も、中身は「取り返せる人的資本が残っているから」で、年齢はその代理変数でしかありませんでした。裏を返すと、残っているうちに使わなければ何も起きないまま減るということでもあります。
参考にしたもの
統計・制度
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」 — 結果の概要(PDF) / ページ
- 厚生労働省「給付と負担について」(社会保障給付費 2026年度予算ベース 144.1兆円) — ページ
- 厚生労働省「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部のとりまとめ」 — 資料(PDF)
- 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)平均」 — 概要(PDF) / ページ
- 金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」単身世帯調査 — 結果(PDF) / ページ
- JRA「馬券のルール」(投票法ごとの払戻率) — ページ
論文
- Bodie, Z., Merton, R. C., & Samuelson, W. F. (1992). Labor supply flexibility and portfolio choice in a life cycle model. Journal of Economic Dynamics and Control, 16(3–4), 427–449. — NBER
- Manso, G. (2016). Experimentation and the Returns to Entrepreneurship. The Review of Financial Studies, 29(9), 2319–2340. — PDF
- Kerr, W. R., Nanda, R., & Rhodes-Kropf, M. (2014). Entrepreneurship as Experimentation. Journal of Economic Perspectives, 28(3), 25–48. — AEA
- Hall, R. E., & Woodward, S. E. (2010). The Burden of the Nondiversifiable Risk of Entrepreneurship. American Economic Review, 100(3), 1163–1194. — AEA
- Barber, B. M., Lee, Y.-T., Liu, Y.-J., & Odean, T. Do Day Traders Rationally Learn About Their Ability? — PDF
- Haisley, E., Mostafa, R., & Loewenstein, G. (2008). Subjective relative income and lottery ticket purchases. Journal of Behavioral Decision Making, 21(3), 283–295. — Wiley
- Kumar, A. (2009). Who Gambles in the Stock Market? The Journal of Finance, 64(4), 1889–1933. — Wiley